愛用していたモロッコの古いスリッパです。
(分解する前の写真は撮り忘れました。)
仕入れなどでパリに行った際に立ち寄るマーケットやアフリカ系のお店ではふつうに買えるものでしたが、20年くらい前を境に一気に姿を消してしまいました。今は薄い革にスポンジを入れたフカフカのものにとって代わり、日本にも多く出回るようになっています。
昔のものが何が違うかというといちばんは、底革と甲革が手縫いされているので丈夫で長持ちすることです。そして全体的な革の厚みが厚いため、経年変化が美しいのも魅力でした。
もう手に入らないことがわかってから、長いことずっとつくりたいと密かにおもっていましたがやっと今年少しづつつくり始めることができました。
バラしてみると、底革は外から見たときからは考えられない程の厚み(3.5ミリ!!)で、甲革も表と裏を合わせるとかなりのボリュームがありびっくりしました。われわれは鞄屋なので靴のことは門外漢なのですが、底革と甲革はシニュー(羊の腱)のようなしっかりした太い糸ですくい縫いがされていました。
漉き(革の縁などを薄く整える行為)は底革の周りしかされておらず、荒いつくりといってしまえばそうなのですが、職人の長い経験と技術に裏打ちされた古き良き時代の量産品なのだと感じました。量産品と言っても、手で仕立てているからつくれる量も限られているのは当然です。その国の職人によって、その国で同じ暮らしをする人たちのためにつくられたものであったはずです。その国の風土と長い歴史が培ってきた考え方や美意識が醸し出す強い存在感や安定感のようなもの。そういうものは真似しようにも真似できない尊いオーラを持っています。
遠い国にいる不特定多数の顔の見えないお客のために、やれつくれほれつくれと大量にできあがってくる現代の民芸品モドキとはまったく一線を画したものです。
分解しながらそんなことをひしひしと感じ、古きモロッコのスリッパ職人に敬意を表しつつ、じっくりつくりをみせていただきました。
普段、モノを入れる為の鞄をつくっている我々ですが、木型のないスリッパといえども人体の一部である「足」を入れる為のものははじめてで、ドキドキワクワクがとまりませんでした。