2012年4月10日火曜日

なつかしい鞄2

枠と胴の縫いをほどく。枠からハンドルを外し、さらに持ち手の縫いもほどいていく。
ひと針ひと針、手で締めながら縫っていく手縫いは当然ながら縫いをはずす時も
ひと針ひと針、丁寧に糸を切りながら進めていく。そうして徐々に鞄の舞台裏の部分が
現れてくる。今とくらべると考え方は荒削りだがすごくエネルギッシュだった制作当時の息づかいがよみがえってくる。まだ経験の浅い20代の私はもちろん、店主藤井も、ものすごい勢いとペースで仕事をしていた頃の鞄だ。
ものづくりには常に不確定要素と不安がつきまとうものだと思う。作業中はその時
考えたこれで「いいはずだ」と信じることを実行するしかない。出来上がった時に
その結果の一部は鞄に現れるが、クオリティーの全容はお客様の手に渡り、何年も
使われてから徐々に明らかになるのだ。仕立てに関する事や、革の見極めの善し悪しなどについては、使われた鞄が戻ってきてから学ばせて頂くことが本当に多い。
そうしてすこしづつ引き出しが増えていく。長い間定番であるこのFL46型も、
つくるたびに色々な試みを入れて現在に至っているが、まだ発展途上である。
昔につくった鞄の仕立ては、もちろん現在のものより劣っているかもしれない。
しかし、ごまかさずに精いっぱいつくった鞄が、美しく、大々的な手術にも耐えるものになったのはそれに携わった者にとってはほんとうにうれしいことだ。
そして何よりオーナーであるI様が、この鞄を愛情深く、油分を絶やさずに使い込んでいただいていたことが今回の大修繕を可能にしたベースである事を忘れてはいけない。


                                 金原