2025年5月14日水曜日

名のない鞄

 30年ほど前に制作した女性のための小さい鞄です。持ち手の付く棒屋根金具部分の重さに対して、軽さ、柔らかさと繊細さをどこまで追い込めるかを悩んでつくっていたのをよく覚えています。 

先日お客さまの S 様 が、中古品サイトで見つけてお買いになったこの鞄を、もしかしたらFugee製ではないでしょうかとお待ちになりました。
Fugeeでは基本的につくったもの本体にネームは入れておりません。(オリジナル錠前にのみ刻印が押してありますが)
それに関して強いポリシーはないのですが、何故か言われるとたぶんネームを入れたとたん急に鞄が「プロダクト」然としてしまうことに抵抗があるのではないかとおもいます。もうひとつ、綺麗にネームを入れる行為に神経を使いたくないというか、そのエネルギーがあったらその時つくっている鞄の仕立てに全力を注ぎたいのがリアルな本音です。

写真の鞄も、当時の意思と情熱がたくさん詰まった鞄で手前みそながらなかなかの秀作だと
おもいます。ブランド名や作家名が有名になり、付加価値が付いてどんどん値段が上がっていくのが今の世の中の在り方なのでしょう。でもその「付加価値」や「世の中の評価」は肝心な実際の「モノ」や「作品」の本質とはまったくかけ離れたものと感じることが多くあります。
名のない鞄であったため、中古品サイトでは格安で出品されていたそうですが、逆にいえば、
名がなくても何らかの雰囲気を纏ったものであったからこそ売りに出され、そしてFugeeの鞄だと確信して購入してくださる方がいらっしゃることが本当に有り難く、なんだかとても誇らしい気持ちになるのです。
名のないたくさんの素敵なアンティークの鞄から、多くのことを教わってきました。
つくり手の意思を感じるものたちの有りようは、名前の有る無しとは全く次元の違うものだと考えます。そしてFugeeはこれからも鞄にネームを入れることはしないのだとあらためておもうのです。



2025年4月30日水曜日

鞄のクオリティー

鞄屋Fugeeは四十数年になります。
その間ほとんど外部の同業者との接触はありませんでした。
おかげでどなたの影響も受けること無く好き勝手なものつくりをすることが出来たのは
とても良かったと思っております。
あえて言えば師と言えるのはいくつかのアンティークの鞄、
初期の頃はバラすことが勉強でした。
そして心がけているのは、今作るものはその作制方法はどんなものでも良いので昨日作ったものより必ずクオリティの高いものであるということです。
私が思うには技術なぞという固定されたものを振り回していては自分のベストを作るのは無理で逆にそれを捨てて、できればマッサラになって新しい方法や見方を模索していないと出来たもののクオリティーは劣化こそすれ進歩はありえないのです。
写真は大好きなアタッシェケースの制作です。






















2025年4月24日木曜日

ありがたいことです。

初めてのメンテナンスの為里帰りした定番BK41型鞄です。
2015年に御注文をいただき2018年に完成、7年間ご使用いただいております。
こちらが恐縮してしまうほど丁寧にご使用いただいている鞄です。
今から10年20年後の経年変化(見届けられるかわかりませんが)を切実に見たいです。
只々嬉しく、有難うございますと申し上げたいです。






2025年4月8日火曜日

春爛漫

長いこと掛かりっきりだった大きな鞄の制作が終わり、ホッとしているFugeeです。
必死でつくっているものが出来上がると、つくり手側のわれわれは魂が抜け出たようにぐったりしてしまいますが、逆に鞄のほうは命を帯び、その鞄としての時を刻みはじめるのを感じます。
いつのまにか季節はどんどん進み、お庭も春爛漫。
アトリエから見える古い梅の木が付けた実、今年ほど量も大きさも立派なときはあっただろうか。このまま順調に育ちますように!!






2025年3月29日土曜日

明るい色のFM42

オーダーでおつくりした、ライトハバナのFM42型です。
写真の2枚目ではそれより少し濃いコンカーで作成した
現在の展示見本の同型と並べてみました。
どちらも作る際は神経を使いますがはつらつとした美しさがあります。
最近お若い方が明るめの色でご注文なさることが多く作り手としても
うれしい思いです。






2025年3月14日金曜日

ボストンバッグのメンテナンス

定番MK44型よりひと回り大きいフルオーダーのボストンバッグです。
10年ほど前に作らせていただきました。
今回メンテナンスのため里帰りです。
やはり一番でっぱっている底の四隅にダメージがありましたが
美しいやれ方をした鞄になりました。
ソフトでなるべく軽くしたいとのご希望で裏地を布にしました。
柔らかい革に何年もテンションが掛かる状況は鞄製作者にとって非常な恐怖です。
革は、特に薄い柔らかい革は長い間の許容を超えた引っ張りで痩せていきます。
安定したバランスの作りとやはり革の良さのおかげかよく耐えてくれています。






2025年2月28日金曜日

20年ぶり

 メンテナンスにお持ちいただきました20年ご使用のW様のダレスバッグです。
よくぞここまで丁寧にご使用いただきましたという感謝の気持ちと革の底力に驚きます。
ベルギーのタンニンなめしダブルバット、現在私どもがよく使うブライドルレザーのバットより少し柔らかい非常に上品な質感の革でした。
コバを磨きなおし全体にクリームを、、。
ご自身でのお手入れのさいに磨かれているスターリングシルバーの錠前はトロッとした艶を放っているのに対して同素材の持ち手の座はあえて触れないようになさったということでイブシ銀への変化をしています。
丁寧に革の芯を削り出した持ち手も全体の完成度の高い美しさに貢献していると自負しております。






2025年2月20日木曜日

掛川二の丸美術館

ご縁があり、ものづくりの友人にかねてから誘って頂いていた掛川二の丸美術館にやっと行くことができました。

現在、特別展として「白の細密工芸ウニコール」が開催されています。
もともと喫煙具のコレクションで有名な二の丸美術館ですが、特別展にもたくさんの秀逸な煙草入れの展示がされています。
煙草入れとは、江戸時代から明治時代に主につくられていたもので、キセルを入れるための筒、帯に引っかかるための根付け、煙草の葉を入れるための袋、などで構成されていますが、素材も専門技術も多岐にわたります。
我々は鞄の仕立て屋なので、どうしても革を使用した「袋」といわれる煙草入れの本体に目がいってしまいます。現代の我々がつくっている「鞄」というものは明治時代に西洋から入ってきた革鞣しをベースとした技術で生産される革で出来ており、西洋化された生活の中で洋服を着て持つためのアイテムです。明治以前の日本人の暮らしや感覚は、絵画、文献、小説や映画などから想像するしかありませんが、革の鞣しやそれらを使った仕立ての技術に関してはほとんど資料がないといってもいいのが現実です。
西洋ベースのいわゆる「鞄」はアンティークの素晴らしいものを見ても仕立てが予想もつかないということは正直あまりありません。しかし、革の煙草入れたちの中には、何十年も革を触ってきた我々の想像を超える摩訶不思議なつくりのものがたくさんあるのです。
どんな道具を使ってそこまで細かい細工が可能なのか。拡大鏡でも見えないほど小さいピッチで掬って切れない当時の革とはいったいどんなものなのか。そんなに細くて堅牢な針が存在したのか。。。疑問は尽きません。

それにしてもいちばんの刺激は、「効率」とか「つくりやすさ」などというものを微塵も感じさせない、というよりむしろその全く逆に向かいながら精緻な表現の高みを追求するものづくりの世界がビシビシと伝わってくることです。
脳みそのつかい方や時間の流れかたも現代とはまったく違うような気さえします。

革を扱う人以外にも、布を扱う人、金工をする人、漆を扱う人、竹を編む人、角を彫る人、、、、、
それぞれのものづくりに携わる多くのひとたちに感じていただける何かがあるはずです。

高級な品であったのは確かですが、神様や高貴な方に献上するような美術品とは違い、装身具のひとつである根付けや煙草入れといった、手の中で愛でられる身近なものであるからか、当時のつくりての息遣いも生々しく感じられるようにおもいました。

限界のない自由で厳しいものづくりの大宇宙は現代のわたしたちのまわりにも無限に広がっているはずなのだ!という想いを胸に、掛川城が美しく映える夕方の空を仰ぎ興奮しながら美術館をあとにしたのでした。













2025年2月15日土曜日

山羊革のショルダーバッグ

鞄は革を使ってただ形にするだけのものと考えるとそれほど難しいとは思わないのですが。
ありよう事態が美しい革という素材を使う鞄ですから
美しく仕立てたいと思うのは当然の事としても、
革の質感を生かした仕立てで、使い方や鞄に入れる物の量も考慮に入れ、
又長期の使用に耐えるよう、となるとどんどん難しくなっていきます。
もちろんそれを楽しむのが私どもの仕事なのですが。
このショルダーバッグも見かけはさりげなく仕立てましたが内側ではあれやこれや
楽しみの(悩みの)多い鞄でした。








 

2025年1月31日金曜日

平面から立体へ

鞣されて平面になった動物の革を立体にしていくプロセスをとてもドラマチックに感じられるのがこの仕立てではないかなと思います。よりふくよかに、より丸みを感じるように型紙を工夫し、パッチの下は切り込みを入れて寄せて縫い付けられています。縮ませたいところ、伸ばしたいところは革のほうにも最大限がんばってもらって、この鞄はショルダーバッグにできあがっていきます。















2025年1月20日月曜日

K様のFL46

お仕事でほぼ毎日6年ほど使われた鞄。
初めての里帰りで念入りのメンテナンスをさせていただいた後の写真です。
真鍮の結晶がいい感じなのは使われているからこそのもの。
そして今回あらたに数年前にご注文いただいていた、金属部分だけを銀925製にした全く同じ形と色の鞄を納品させていただきました。

重くないですか?とお尋ねしてみたところ、「とても気持ちがシャッキリするので他の鞄は使えなくなりました」となんとも嬉しいお返事をいただきました。

新しい鞄のほうは何故か写真を撮り忘れていたことにあとから気づきました。
使われて何かが宿ったものの方が、強烈なオーラを発しているというかとでしょうか(笑)






2025年1月3日金曜日

新春2025今年もどうぞ宜しくお願い申し上げます

あけましておめでとうございます。
18年過ごした渋谷からここ要町に移ってあっという間に12年に、、。
お正月のお気に入りのお飾りを玄関のミシンの上に今年も飾りました。
ずうっと同じものでは、、と思い暮れに新たなものを求めて駒場東大前まで行ったのですが
やはりこれが一番素敵と感じ今年もこれです。
お飾りをそんなふうに選ぶなんてと叱られそうですが空を飛んでいるUFOのような
ゆるさがFugeeにはピッタリの気がします。
本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。