2023年12月8日金曜日

作り方の違い、小物と鞄

以前にも書いたような気がしますが小物と鞄では作る感覚が違います。
鞄は全体のバランスが非常に大切で、バランスを意識しながらそこから派生した部分を
どう表現し完成度を高めるかを考えます。
ですから部分から考え始めるという事は少ないです。
部分にあまりにこだわり過ぎるとハッキリ言って
バランスの悪い間の抜けたものになりがちです。
部分どうしの繋がりがなかったり、部分が鞄全体とズレたものになる事もあります。
私もそう言う鞄を作った苦い思い出があります。
では小物を作るときはどうかと言うと今度は品物の細部にまで目を配り完成度を高めます。
小物は使われる方の手の中で内側も含め細かいところまでしっかり見られる物だからです。
革製品を作る方は多くの場合小物から入っていく方が多いようですが、
是非面白い広がりを感じられる鞄にもどんどん足を踏み入れてみてはいかがでしょう。



2023年11月19日日曜日

Fugee のラゲッジタグ

ものを作る時の私達の発想はそれ程複雑ではありません。
いわゆる凝ったデザインなぞと言う怪しいものでもありません。
ものを作る人間の発想は入り口と出口をはっきりと意識するだけで
良いのではないでしょうか。
入り口である素材をしっかり知り、意識しながら作ること。
鞄屋の場合は素材としての革をどう使ったらどうなるか、どうしたいか、
どうしたら有利でどうしたら不利か諸々。
自分以外の人が使用する物なのでそのニーズにどこまで革を近づける事ができるか。
そして大事なことは革の美しさに自分がどっと浸ることと同じくらいにそれらの意識を深くする事だと思います。
大雑把に言うとそんな気持ちで革に向かっています。







 




2023年11月12日日曜日

Fugeeの万年筆ケース

毎年8月と9月に制作する革小物達の中で今年制作したペンケースです。
一つはイギリスの豚革です。
これは革好きで有名なビスポーク靴屋さんからお譲りいただいたもの。
昔、日本には豚革の良い鞣屋があり何度か品物を作らせてもらった事がありますが、
それに少し似たところのある良質の豚でした。
もう一つはブライドルレザーのグリーンを使用したものでモンブランの149を基準にお作りしました。
どちらも入れ駒縫いと言う手縫い独特のステッチのものです。
今回は3本入れのものでしたが1本入れから本数はご希望でお作りいたします。












2023年10月30日月曜日

2023年の小物制作

オーダーいただいたお客様のものを制作するのが精一杯となりましたが、今年の小物制作期間も無事終了し、写真撮影。と、ほっとしたのも束の間、お渡し日が迫る次のお客様の仕事に嵐のように巻き込まれていった10月が終わろうとしています。今年があと2ヶ月で終わるなんて信じられません。。。



2023年10月21日土曜日

A.T.様のFugeeコレクション

こちらは前回とは別のT様がお持ちのアイテム。
とても丁寧にお使いになっていただいております。
ご注文頂きお作りしたのが8年前、その後カバンとお揃いの革で小物2点をご注文いただきました。
鞄を作っていておもしろくて難しいのは10年、20年経てご使用いただいた時どんな変化をするかを予測しながら革の状態を見極め仕立てる事です。
新しい革はどれも繊維がしっかりしてキリッとしています。
あっという間に繊維がほぐれる革、柳腰で繰り返しの曲げや受ける荷重に耐える革。
あっという間にほぐれてから使用感のある美しさが続く革、続かない革。
新しい時と全く違う、美しく化ける革、化けない革。
そしてそれを助ける仕立て。
私達にできる事はのそのくらいです。
Fugeeは40年数年毎回そういう事を考えながら、と言うより悩みながら鞄を作ってきました。
今から10年ごが楽しみなこの鞄の場合も張りのないシュリンクレザーに何をどういうふうに裏打ちをするか悩んだのを覚えています。



2023年10月11日水曜日

T様のFugeeコレクション

今年はお持ちの鞄や小物をメンテナンスがてらお持ちくださるお客様が多く、
われわれつくり手にとってもとても嬉しく、ありがたい勉強の機会となっております。
この中で一番古いものは右下の一本刺しの万年筆ケース。かれこれ17年くらいは経っていると思います。このとろみと艶感はボックスカーフならではの経年変化です。












 

2023年9月30日土曜日

ヌメブライドルの迫力

 ブライドルレザーの持ち味を最大限引き出せた鞄だと思っています。
あえて裏革はつけていないので一見ざっくりした雰囲気に見えますが、
こだわる部分にはどこまでもこだわった繊細でありながらダイナミックな仕立てです。
金具も全てオリジナルです。
どちらもそれぞれ違うお客様による売約済みとなっておりますが、このツーショットを残しておきたくて写真に収めました。




2023年9月21日木曜日

ファスナーのボストンバッグ MK44型

 シュリンクレザーとエレファントを組み合わせたボストンバッグです。
この鞄もFugeeの定番としてデビューしてもう随分になります。
今でこそファスナーを使った定番はいくつかありますが、そうなるまでには
色々ありました。
今の国産ファスナーの素晴らしさは言うまでもありませんが、
以前のファスナーは機能一辺倒でなかなか美しいものは無いのが実情で、
スイスのものを探し求めて使ったりしました。
更に時を遡り私が鞄を始めた頃の名人と言われるお年寄りの話に「チャック物は安物」
と言う言葉がよく出てきました。
当時はまだまだ完成度のないものだったのだと思います。
私が始めた当時もそういう感じはまだ有り、長い間ファスナーものを積極的には作りませんでした。もう三十年以上も前の話です。
何はともあれ写真は両開きファスナーを使った人気者ボストンバッグの
サイズの大きい方です。
セミオーダーで上品な革の組み合わせをお選びいただき作らせていただきました。






2023年9月11日月曜日

秋の仕事?

 例年、夏の約2ヶ月ほどを小物の制作にあてています。
今年は全体的なスケジュールが押せ押せになり、制作開始の時期が大きくずれました。
いつもなら真夏の日差しと暑さを感じながら仕事を進めるイメージなのですが、残暑が厳しいとは言え、秋の気配を感じながらの小物づくりを頑張っております。
オーダーいただくものの他に展示販売用の物も各アイテム作るのが恒例ですが、今年はどのくらいできるかしら。。



2023年8月31日木曜日

初期の箱型名刺入れ

最近メンテナンスさせていただいた薄緑色のテジュー(トカゲの一種)の名刺入れ。
クリームを入れて磨き直すとみるみるうちに息を吹き返しました。
使用してある革を見ると、この名刺入れを作り始めた2004年から2005年くらいのものだと思われます。内張りに使用してある革は大好きだったカールフロイデンベルグの淡いグリーン。20年経ってもこのパンパンの張りは、この革の優秀さと仕立ての具合によるところが大きいと実感。






2023年8月21日月曜日

お仕事用のショルダーバッグ

仕事をする女性のお客様からオーダーいただいたバーガンディ色のシュリンクと型押しの組み合わせによる仕事用のショルダーバッグ。
肩にしょってそのまま鞄を抱えるように持ちフラップを開け閉めする使用です。
A4の書類とご自分の小物が入るようにとのご依頼でした。
しょった時、短めのストラップは肩からハの字型に鞄本体に伸びます。
フラップの開け閉めの際の両サイドがなるべくストラップと干渉しないよう
いくつかの工夫をしました。










2023年8月10日木曜日

PM40 バリエーション 2

 英国ベイカー社のロシアンレザーレプリカと茶色のブライドルレザー、金具類は銀色でというご注文で底鋲はスターリングシルバーを使用した贅沢な組み合わせ。
独特な凄みを感じる鞄となりました。ベイカー社のこの革で鞄を仕立てるのは初めてなので、エイジングの行方も楽しみです。



2023年7月25日火曜日

懐かしいアタッシェケース

懐かしいアタッシェケースが20数年過ぎて里帰りです。
今見ても気合の入ったつくりだなと思います。
非常に長いスパンですが丁寧にお使い頂いていい味わいになっています。
表革はカールフロイデンベルグのボックスカーフ。
金具は全て銀(925)、もちろんアタッシェ用の銀錠前なぞある訳もないので
錠前の型は自作し鋳物屋さんに持ち込み、組み立て作業はFugeeで。
錠前の機構部は古いものを外し、いい位置に取り付け一応オリジナルと言うことで完成。
ただ市販の多くのこのタイプの錠前は開錠の時跳ねあがるバネがほとんど数年しか持たないということがあり、改めて錠前と一緒に設計し直し安全率を上げたバネにしました。
最近は木枠使用のアタッシェ等の注文が増え芯材を使った箱物を作る機会が減りました。
以前は結構注文はあったのですが。
これからは少し箱物のつくり等のご説明もしていきたいものです。
ゆったりとした柔らかささえ感じられる大好きな鞄を前にお客様とお話が弾みました。





2023年7月15日土曜日

PM40 バリエーション 1

 この形もいろいろな革や色の組み合わせをしてきましたが、最近の仕事から。
上の写真がシュリンクカーフのネイビーと黒いブライドルレザーのコンビ。
下がシュリンクカーフのネイビーとバーガンディ色のブライドルレザーのコンビ。
どちらもシックで素敵でした。






2023年7月4日火曜日

ボックスカーフの茶箱 7

長い時間茶箱制作にお付き合いいただきましてありがとうございます。
なかなか思ったような写真や文章にはならなくてお伝えしたい事が伝わらなかったかもしれませんが私達にとっては工夫しがいのある楽しい仕事でありました
44年前初めて革に触れてから、こういう面白い仕事もさせて頂くようになりました。
これは当然ですが私どもの仕事を認めてくれるお客様があっての事で本当にありがたい事です。
少し生意気なことを申し上げます。
今私どもがどんなご注文も自信を持って進められるのは他社(他者)の影響をなるべく受けないようにして、ひたすら自分達のベストだけを追い求めて作り続けた結果だと思っております。
今鞄に携わろうとしている方、ご自分の方向に迷いをお持ちの方、できれば十年以上ご自分のベストだけを追求する鞄作りをしてみてください。他と同じ物やディティールにばかりこだわるつまらないもの作りを必ず超えられると確信しております。



2023年6月20日火曜日

ボックスカーフの茶箱 6

作業もいよいよ後半に入っていくところです。
だんだん出来上がって姿を表していきます。
品物が非常に単純だということもあり、難しそうに見えるところはまったくありません。
でもそう見えるのはとても良いことです。こういうところに書かないとどなたにもわからないというのは少し残念なことでもありますが、何事もないようにさらっと見えるというのは大事なのです。余談ですが工芸とは呼ばれない鞄作りの分野にも自分の表現の限界を探ろうとする作り手達がいる事を知っていただけたらと思います。










          


 








 

2023年6月9日金曜日

ボックスカーフの茶箱 5

ものを作っている一部の方にしか分かりづらいとは思いますが、自分の中で「作る」の一番前に行こうとしたら破綻するか持ち堪えるかの際を爪先立ちでウロウロするものです。
下の縫っている写真は見て分かるように試作です。呑気に楽しく縫っています。
そして真ん中は微妙な距離感を綿密に計測し、それに革の伸びなぞを考慮に入れ0,5mmの半分の半分くらいを信じて胃を痛くしながら貼る瞬間です。
丁寧さにも、強引さにも、神経を張るにも、もちろん自分の手(技術)にも、
限界は当然あります。
でも自分の一番いいものだけを作りたいと思う気持ちも山ほどあるんです。
悔しい思いは日常茶飯事ですし爪先立ちのウロウロはいつまでも続きます。







2023年5月31日水曜日

ボックスカーフの茶箱 4

作業は全て互いに関連しています。
コバの厚みを革2枚分にする為木枠の端に革の帯を埋め込みました。
革を折り曲げる部分(写真中、下)は原厚から0,5mmに段に漉いて(写真上)
ルーズなRでなくエッジに折れるようにします。
難しいのは縦も横もまったくのハメころしで逃げがないことです。
部品それぞれにテストテストでデータを取り本番につなげていく作業の繰り返しになりました。











2023年5月23日火曜日

ボックスカーフの茶箱 3

依頼して出来上がってきた木枠です。
私達が本当に助かるのは限界的に図面寸法で出来上がってくることです。
意図的に微妙なテーパーが必要な時や革の厚みの関係で更にこちらで部分的に少し削ることはありますが毎回の的確なもの作りには頭が下がります。
今回話を進める中で提案いただいたのはアガジスという比較的軽い木で
20年以上寝かせたいい素材があると言うことでお願いしました。
と言うより木に関してはほとんど何もわからない私達はいつも
作る枠の必要な条件を伝え、毎回どう答えを出してくれるか口を開けて
彼の話を待っていると言うのが本当のところです。
私たちの思い以上の答えを出そうとしてくれる人だからこそ
20年以上のお付き合いをさせていただいています。





2023年5月10日水曜日

ボックスカーフの茶箱 2

外側のボックスカーフの見せ方、ステッチの検討です。
革に関して多くの知識と感性をお持ちのクライアントに試作の様子をお見せして
方向を決めます。
胴の革の切り口と側面の革が同じ面になるように、更に胴の革の切り口が革を2枚合わせた3mm程度の厚みにと言うご希望です。
非常に高いハードルをご提示いただき数日頭を冷やしてから作戦を立て始めます。
ものをつくる時、素材によってその精度は異なりますが、今回は私共の革の作業で出来る限界かと思える仕事でした。




2023年4月29日土曜日

ボックスカーフの茶箱 1

 時々ではありますが夢中になれる我を忘れる仕事が入ることがあります。
今回のこの黒い箱は一言で言えば茶箱です。
パーソナルな茶道具を納め運ぶ為の革の箱になります。
写真は上から図面、内箱ありの時の蓋、内箱なしの時の蓋を閉めた様子です。
制作の一年弱前から検討に入り図面を描き始めました。
あるメゾンに検討を依頼したと言うお話をお聞きして俄然「これよりいいものは何処にもない」と言うものを作ることにしました。
制作工程はいつもと同じ図面検討(いつもより時間がかかりました)、木部打ち合わせ発注、試作検討(これも長期にわたる作業でした)、本作(神経を研ぎ澄ましたほとんど進まない作業の日々が延々と続きます)。
でもできるんですね。
面白い仕事でした。
仕事の内容等を少しずつご紹介していこうと思います。







2023年4月16日日曜日

出番を待つ

写真は出番を待つパーツや素材。
ひとつの鞄にかかりっきりで取り組みたい。。。
でも水面下で進めなくてはならない計画、書かなくてはならない図面、教室の準備などが重なってなかなかままならないことも多々あります。それがお仕事というものなのかもしれません。それでもやっぱり、まとまって時間を取れて一気に集中して作り上げることができるのがいちばん気持ちの良いものです。



2023年4月9日日曜日

定番のショルダーバッグ

定番のショルダーバッグPNBX、現在の展示用鞄です。
ブライドルのバーガンディにセピア色のステッチ。
金具はデッドストックの日本の古い錠前をばらし、形を気に入ったように削り直したものを使用しています。
この鞄は、あるアンティークのカメラのケースの胴と駒(マチ部)の繋がりが非常に美しく完成度のある仕立てだったのに動かされて発想し、出来たかたちです。
参考になったカメラケースはかなり小さなもので糸も切れかかり革も反り返ったりしていましたが、その仕立てのあり方は革をいじっている人ならではの発想だろうと思わせるもので、革をよく知った人ならではのシンプルで機能的な作り方をしています。こういうものはデザイナーと言う部門が全てを決める現代のもの作りではとても出来ないものだろうと思います。










2023年3月31日金曜日

試作の楽しみ

今回は定番のMK42、MK44の仕立て調整のための試作です。
試作は時間と手間がやたらと掛かる作業ですが実はとても楽しい作業です。
それはなんと言っても「どんな事を試しても良い」と言うところです。
もちろん何度も同じような事を繰り返す訳にはいきませんのでどう言うことを目的とした
試作なのかは綿密に検討はします。でも何を検討するかと言うのは自由です。
こう言う仕立てを試したい、革の厚みはこのくらいでどんな表情の鞄になるか、形の限界は、全体を整えてどのくらい美しいものが出来そうか等々、糸の太さ、ステッチのピッチ、コバの厚さ、今まで見たかったあの部分を念入りに、、何でもOKです。
慎重に丁寧に鞄を作っていくのは勉強にもちろんなりますが、試作を色々な方向から眺めながら組み立て感じていくのも同じように勉強になります。



2023年3月19日日曜日

使われたものの味わい

N様のコレクション。
メンテナンスでお預かりしました。 
使用頻度の多いものは擦れたり擦り切れたりのダメージも当然ながらありますが、ちょっとした縫い直しや部分的な色の補正など細かいところをチェックしながら全体的に油分を補給していくと、革がふわーっと息を吹き返す瞬間を感じる時があります。そこからみるみるうちに表情が甦ってくるのが分かります。手をかけると反応で返してくれるのは天然素材ならではのことなのですが、つくるときの革の扱いと仕立てがまっとうでなければそれはかないません。メンテナンス中に良い反応が帰ってきたときの喜びはつくったものだけが味わえるささやかなご褒美です。




2023年3月10日金曜日

鞄屋のお付き合い

 定番のFM42、お客様の手に渡ってから12年目の顔です
有り難い事です、つくったものを(自分の作業を)時間を経てから目の前にできるとは。
同じ形の鞄でも、使い手であるお客様によって表情はさまざまに変化します。
実用品であり嗜好品であり経年変化をするものでありそれぞれの変化はご使用になる方によって異なる「物」です。
当然ですが革も長い年月を経て徐々に朽ち果てて行くのです、そしてその過程が美しいのが私達のつくる革の鞄なのです。
私はもう少しこの業界が、つくり手が、その事を真剣に考えるべきじゃないかと思います。
残念ながら今の世の中がつくり出す品物のほとんどは資本主義だからかは知りませんが
お金の計算から作るものを決めているように見えます。
自然素材である革を使用した鞄も例外ではないでしょう。
情報が溢れ出しているSNSを見てもつくり手の想い、意志よりブランド、流行りなどが中心の世界になっているのは良くわかります。
若いつくり手が本当に育ちづらい状況も気になりますが、
自分のつくった物にとことんお付き合いをするつくり手でいようと思います。