黒光りした真鍮の口枠と、渦巻き式の止め金具。
煙草入れの名残りを感じさせる革部分の仕立て。
骨董屋で見つけて、釘付けになってしまったこの小さな鞄。
あまりにドキドキが止まらなかったので、連れて帰ってきました。
西洋から入ってきた「鞄」の文化を、日本の作り手たちがどのように受け入れて、
こなしていったのか。いつも気になっているそのあたりの時代のこと。その断片が
とても生々しく迫ってきます。
精緻なつくりの口枠は、拝み合わせ(大抵のこういうタイプの口枠は入れ子になっています)で、装飾的なかたちも実は本体の革部分の不利な点をカバーするラインになっています。(彫金の専門家にお見せしたところ、へら絞りの技術でつくられているのではないかということでした。)そして、鞄屋にとっていちばん興味深いのが革の扱い。内縫いのように見えて、外縫い?の仕立て。
江戸末期から明治中期くらいまでにつくられた素晴らしい煙草入れは、コーディネーターである袋物商と様々な分野の職人による総合芸術です。彫金や牙彫、蒔絵、刺繍など装飾的部分に焦点があたるのは当然で、それらに比べると地味ではありますが、革や布で袋物をつくる「仕立て屋」の仕事のなかには、現代の鞄屋からしてみるとびっくりするつくりの美しいものがあり、美術館の展示や本で見ることがあります。
まだ西洋文明にどっぷり浸かりきる前の、日本人ならではの発想からなる革のこなし。
そのほんの一部かもしれないけれど、すこしだけ前より身近になる気配。
蛇足ですが、つくりてからみると、持ち手とその根本の丸かんが、凄みのある本体に付けられるものとしては妙に間が抜けているように感じます。オリジナルは、もうちょっと気合いの入った素敵な持ち手がついていたのではないかなあなどと思いをめぐらしてたのしんでいます。
それにしても、写真やガラス越しでなく、自由に触るのはもちろんのこと、ちょっと削ったり、糸をほどいたりしても怒られないってほんとうに嬉しいことです。