2013年10月20日日曜日

N 様の口枠鞄

どうせ作るならその方に思いを寄せながら作るほうが楽しいし、
出来上がってお渡しする時の嬉しそうなお顔を思うと元気が出ます。
この鞄は形は定番ですが中身はかなり違います。
仕立て上の見えない部分も入れたら全く違うものと言ってもいい。
大きな鞄に書籍をいっぱいにして持ち歩く、あるいは肩からかけて。
どうしても金具は全てスターリングシルバーでとお願いされましたが、
そういう使用状況で素材の柔らかさはとても不利になります。
という訳で、錠前に負荷が掛からないよう練りに練ってある工夫をしました。
先日修理以来があり「ついに来たか」と思い見せて頂くと、
持ち手を止めているネジが緩んで外れただけで他の部分は大丈夫でした。
10年程お使い頂いていますが、大切にして頂いている事がとてもよくわかります。
色が少し抜けてきた所も彼の好みの経年変化で、メンテナンスの際の着色は
あえてしないでほしいというご要望でした。
「今がいい所でこのままの状態であと何年持てるだろうか」と言われていましたが、
はっきり断言はできませんが倍は充分持つと思われます。
つくり手を離れて、長い年月をつかい手とともに過ごした鞄の表情は
ほんとうに個性的で、いとおしいものです。